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真理を探究する
academic surgeon
Taizo Hibi
教授 日比 泰造
熊本大学の小児外科・移植外科は、新生児を含めた小児外科と、成人・小児の肝移植を中心とする腹部臓器移植外科の両翼をひとつのチームで担う、世界でもあまり類を見ない特別な診療科です。
初代教授の世良先生は小児外科の中でもとくに肝・胆道疾患および悪性腫瘍の治療を強力に推進される中で、世界初の生体肝移植成功例となる患児をオーストラリアにご紹介することで胆道閉鎖症の新たな治療戦略への道を切り拓かれました。続いて第二代教授の猪股先生が、生体肝移植を飛躍的に発展させたことで世界的に知られる京都大学でのご経験を元に、小児外科に加えて移植外科を当チームのふたつの柱として掲げられ、 通算500例(2017年時点)と日本屈指の移植施設に育て上げられました。
現在、我々は小児外科の主たる対象疾患である先天奇形の是正と、 末期臓器不全に陥った肝臓や小腸などの腹部臓器の置換は、「機能再建外科」の観点から理念は共通である、という猪股先生の教えを踏襲し、臨床・研究・教育に邁進しております。教室員の総力を挙げ、小児外科と成人・小児の移植外科という極めて専門性が高く、高度な知識と技量が要求される領域において、良性・悪性疾患全てを網羅した全方位的な医療を目指しています。たとえば小児の肝移植はかつて唯一の救命手段だった時代を乗り越え、治療成績が著しく向上しその役割はよりよい生活の質を求める方向へと移っています。患者さんの生涯にわたって時間を共有し、命と対峙することを喜びとして、日々研鑽を重ねてまいります。
移植外科としては、成人・小児の生体・脳死肝移植を年間10-20例実施し、治療成績も良好で日本の肝移植の指導的役割を果たしております。とくに家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の専門施設として名高い神経内科との協働で、ドミノ肝移植の豊富な経験を有するほか、代謝性疾患に強い小児科との連携も緊密です。また、これまで成人では肝細胞癌、小児では肝芽腫に限られてきた、悪性疾患に対する肝移植適応が集学的治療の進化と共に拡大しつつあるほか、移植手術の技術を応用することでがんの切除限界の常識も変わりつつあります。さらに腫瘍免疫と移植免疫の新たな知見を元に、がんの治療は新たな発展段階を迎え、”Transplant Oncology”という概念で腫瘍外科と移植外科を融合して捉える時代が到来したと考えています。脳死小腸移植実施施設にも認定されております。2012年からは移植医療センターが開設され、熊本における移植医療の推進の中心的役割を果たすべく、専任医師1人と移植学会の認定を受けたコーディネーター1人が勤務しております。
小児外科としては日常疾患である鼠径ヘルニアなどの一般手術に始まり、腸回転異常や壊死性腸炎、腹壁破裂などの新生児外科、胆道閉鎖症や肝芽腫などに対する肝移植、あるいは小腸不全に対する小腸移植などの高難度手術までを視野に入れ、あらゆる小児外科診療を行っています。胆道閉鎖症や胆道拡張症などの肝胆道系疾患は世良先生が特に注力されていたことに加え、猪股先生が多くの肝移植を手がけてこられたため、非常に多くの診療経験を蓄積しています。また小児がんの患者さんは、外科治療だけではなく薬や放射線による治療を併せて行うことが必要な場合も多く、大学病院の特徴を活かして,小児科や放射線治療科を含め、多くの診療科が協力して治療にあたっています。さらに、世界最高水準を誇る日本の新生児医療を反映し、少子化が進む日本であっても低出生体重児は年々増加しており、小児外科医の果たすべき責任がますます大きくなっています。新生児の外科疾患は、新生児集中治療ユニット(NICU)で新生児専門医師と連携して診療を行っています。
一般手技から高難度手術までを手がけ、生涯にわたり患者さんを診る我々は、まず何よりもひとりの人間として患者さん・ご家族と向き合い、そして外科医・科学者として生命の深淵を覗き込むことを怖れず、真理を探究するacademic surgeonであることを信条としています。
日本のみならず世界中の小児患者さん、そしてがんを含む様々な理由で末期臓器不全に陥った患者さんに最高の外科医療を届けることが我々の使命です。たとえ険しい道、道なき道であっても常に患者さんと共に未来を信じ、技と知恵を限りなく磨き、熊本から連帯を広げて、理想の高みを目指してまいります。